鉛色の紙飛行機

ゲームについての感想など。

最悪なる災厄人間に捧ぐの感想と紹介:世界を越えて人間の成長を描く物語

今回はケムコから2018年に発売されたADV、
『最悪なる災厄人間に捧ぐ』(通称さささぐ)についてご紹介します。

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詳しい部分は公式サイトで説明されているので省きますが、

とある出来事から生物に対する視覚と聴覚を失った主人公、豹馬
豹馬にしか見えない透明人間のヒロイン、クロ

この豹馬とクロが残酷な"災厄"に立ち向かう、
すごく、すごい、なんかとにかくすごい物語です。


まず、全てが伏線であり、物語が論理的に、自然に繋がっているのがすごい。
公式サイトにも「パラレルワールド」とありますが、この世界設定はなかなか複雑です。
ですが、伏線を綺麗に回収し、設定を活かしきり、物語は完結へ向かいます。

突飛な展開と感じたとしても、しっかりと理由付けがされているため、
読み進める度に「なるほど、こう繋がるのか…」が多発することになります。
伏線はどこにでも転がっているので、油断はできません(もう一周しても良いぐらい)。


次に、登場人物の内面の描き方がすごい。
30~40時間かけて豹馬とクロを掘り下げていくという時点で普通ではありませんが、
平行世界の数の分だけその内面が語られていきます。
物語中に登場する主なクロは5人(ふー、キナ、みー、なつ、にゅー)で、
表面的な性格はそれぞれ違いますが、根本的な性格は変わりません。

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※完全ではありませんがクロたちは同時に存在できます。

様々な視点から、豹馬とクロが過ごした時間を通して、その内面が語られていきます。

もちろん良い面から、悪い面まで。

この物語は怪奇(幻想)、純愛、青春など様々な要素を含んでいます。
あえて一言でまとめるなら、豹馬とクロの成長譚でしょう。
あまりにも残酷な世界の中で懸命に生きる豹馬とクロの姿には、心打たれるものがあります。

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※もちろん豹馬とクロの姿も変わります。


そして最後に、プレイヤーに対する問題提起がすごい。
ここばかりは人によりけりだと思いますが(全然合わなかった人もいるはず)、
プレイヤーが望む展開を理解したうえで、そこに否定や疑問符を投げつけていきます。
それぞれの登場人物の妥協のない掘り下げもあり、
「善悪」、「愛」、「幸福」、「正しさ」、答えの出ないそれらについて考えさせられます。

結末を迎え、「fin」の文字を目にした時は言葉を失いました。
BADエンドとは何か、TRUEエンドとは何かについても疑問を持ってしまい、
考えがまとまらないのに、気分は悪くなく、生きる気力が湧いてくる。
数年前にプレイした「素晴らしき日々」(※)とはまた違った方向で、衝撃的な物語でした。

 

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流血表現もあり、いじめ、自殺など陰鬱な出来事も絡んではきますが、
えぐい展開が苦手でないのであれば(得意な人なんてそうそういなさそうですが)、
是非手に取ってみてほしいゲームです。






この、何もない世界の中で、たった一人。
彼女だけが傍にいる。

これは、幸せだと思いますか?








追記:

(じゃあ、その、……)

(キナコソフトクリームでお願いします)

 

素晴らしき日々
2010年に発売されたR-18のノベルゲーム。
ウィトゲンシュタインという哲学者の「論理哲学論考」を中心に、
哲学や文学の要素が混ぜ込まれている。
こちらもいじめや自殺が絡んだ物語となっており、相当えげつない。